日本のこれからの物流を考える ~ 第4回 日本物流が抱える構造的な課題(2)

松島 聡 シーオス株式会社

代表取締役社長

薬剤師免許取得後、アクセンチュア戦略グループシニア・マネジャーを経て、2000年シーオス(株)創業。2008年東京薬科⼤学理事(2期6年財務委員長・ICT委員長) 、2010年⽇本ロジスティクスシステム協会(JILS)広報委員・IoT部会委員などを歴任。近著に「UXの時代」。公益社団法人⽇本ロジスティクスシステム協会 調査研究委員会 副委員長

第4回 日本物流が抱える構造的な課題(2)

小川:
前回、松島さんに日本の物流が抱える課題を4つ上げていただき、その中の①と②について議論してきました。今回は③と④についてお話しさせていただきます。

 (1)物流が重要な戦略要素であるという意識の欠如
 (2)物流のスペシャリストが育たない環境
 (3)ロードファクターに対する認識不足
 (4)多重下請け構造‍

松島:
はい!よろしくお願いします。

■ロードファクターに対する認識不足

小川:
まずは、ロードファクターについてはどうでしょうか。

松島:
ロードファクターに関しては、そもそも正しく理解している人材はまだまだ少ないと感じています。全体最適の概念からみると非効率な部分が多くあります。

小川:
例えばどのようなことが挙げられますか。‍

松島:
顕著だなと感じるのは専用便ですね。確実に納品するということが重視されるため、行きは満載・帰りは荷物が無い空便という状況を目にします。納品のサービス重視から脱却し、全体のバランスを考えサービスレベルは可能な範囲まで下げたとしても効率化を図り継続性を重視していくことがこれからは重要です。‍

小川:
確かに物流の最適化ができていない企業が多いと私も感じます。

松島:
JILS(日本ロジスティクスシステム協会)が長年統計を取っています。これまで物流課題というと物流コストが長年トップに挙げられていましたが、最近は物流の持続可能性が上位に挙がってきています。少しずつ物流の戦略的重要性を認識する傾向がでてきているので、持続可能性において何が重要なのかということを掘り下げていく必要がありますね。‍

小川:
ロードファクター改善のヒントは何かありますか?

松島:
ロードファクターは本当に低いので、同一エリア内の配送であるならば業種や企業を超えた共同配送、もっと大胆に考えるのであれば商品の温度帯という属性で共同配送を行い、最適化を目指すというのも有効だと思います。そういった柔軟で思い切った発想が求められてきますね。

小川:
前回も少し触れましたが、ロードファクターは運ぶ商品の特性によって「容積勝ち」や「重量勝ち」が発生します。本当の物流の効率化を考えると重い商品と嵩張る商品を組み合わせて最大積載量で運び物流の付加価値を上げる事が求められます。それを実現しようとすると一企業で行う事は困難なので企業や業種を超えて連携する必要があるのですね?
日清食品の即席麺(≒容積勝ち)とサッポロのビール(≒重量勝ち)を混載して物流効率化を図る取り組み等が始まっていますが、このような取り組みをどんどん進めていくことが重要なのでしょう。
また、言うまでもありませんが、専用便の帰り荷を埋める事もロードファクター改善に向けた大きな課題になります。こちらも一企業で進めるには限界があります。このような動きは、優良な補完関係になり得るパートナーをいかに早く見つけるかの競争になっており、その競争は激化しています。従来の商習慣にとらわれず、フットワーク軽く動き出さないとダメですね。‍

松島:
まさにその通りだと思います。日本には物流戦略からビジネスモデルを考えるということが欠落していると感じます。アメリカではインフラをいかに抑えるかがビジネスの重要なファクターになります。ウォルマートの競争相手には魅力的だと映らない小さな町に正規規模の出店をし、コアとなる物流センターを構築してドミナント戦略で店舗を増やしていくやり方もそうですし、Amazonも翌日には商品を届けられる物流拠点を配置できたからこそ日本でも成功したと言えます。

小川:
その物流を構築するにはやはりデータ分析は必要になりますよね。

松島:
そうです。物流拠点の構築には配送ルート毎の物量のデータだけではダメで、経由地の情報や商品毎の荷姿や重さ、温度帯、納品時間等の様々なデータを使い、最終的にはロードファクターまで落とし込んで検討を進める必要があります。一方で、日本の企業はその独特な物流業界の構造(多重下請け構造や中小・零細企業の多さ)からシステマチックにロードファクターに関するデータを集積出来ていません。積載率の低さについても感覚で捉えている企業が多いのが実情です。
事実や課題を明らかにする粒度や精度のデータを保有していないので、正確なコスト構造も把握できていません。そして、そのコストの要因となる稼働率・積載率についても当然正しく認識できていないというのは大きな問題です。

小川:
分析するものが無ければ分析する人材は集まらないですよね?

松島:
データ軽視の悪循環ですね!

小川:
その悪循環を断ち切る方法はありますか?

松島:
データを集めて分析をしていく作業を地道に行うしかないと思います。
我々はこれまでの経験と実績がありますので、次世代のビジネスモデル構築と圧倒的な競争優位を築くお手伝いはできると自負しています。

小川:
非常に重要な投資ですね。

松島:
確かに重要な判断になるので難しい部分もありますが、思い切った判断をしないと新しいゲームチェンジャーにやられてしまいます。

■ 多重下請け構造

小川:
スペシャリスト育成やデータ活用を目指そうとした場合、日本の物流業界特有の多重下請け構造がかなりネックになっているのではないかと感じているのですが。

松島:
仰る通りです。日本の物流産業は非常に複雑な多重下請け構造となっています。
これまで物流は製造業と従属的な関係にあり、とにかく「言われたとおりに運ぶ」ということが最重要課題でした。また、物流業者を競争させることで物流費を抑えるという傾向が長く続いていました。人口が増え、物量が多かった時代は物流の事業維持ができていましたが物流軽視の状態でもありました。
店頭に並んでいる商品を見て、日本全国から運ばれてきているのになぜあんなに安く販売できるのか疑問に思いますよね。

小川:
アメリカの物流業者はどうなのでしょうか。

松島:アメリカの物流業者、いわゆるトラック運転手は意外と発言力が強いんです。価格を下げようものなら運ぶの拒否しますからね(笑) なので日本のような物流軽視は無いと言えますね。

小川:
アメリカは国土が広く道路も幅があるので、トレーラー輸送で1回の物量を多くして配送の付加価値を上げられるので、1回の配送料も高く設定できるのでしょうね。その結果としてトラック運転手の報酬も高くなる…。

松島:
日本では配送において非常に細かい条件を求められます。品質管理上とても大切ではありますが、「コスト高」と「物流品質の維持」の面で重い負担となっているのも事実で、実際に物流会社の倒産件数も増えています。
物流会社には、その会社が運んだ荷物全てをモニタリングする義務があると思いますが、子会社、孫請け、ひ孫請けの会社まで管理することはかなり困難です。中小・零細規模の会社が多くDXのような先を見越した投資もできない物流会社がほとんどなので、モニタリングだけでなく、データ収集・分析もできませんから生産性の改善もできません。そして、データ活用をして効率化を進めたい荷主や元受け企業に対してデータの提供も出来ないのです。
それからトラックにまつわる様々な事故が起きていますが、孫請け、ひ孫請けまで管理が行き届いていませんから、安心・安全といった社会的な問題への対応も難しくしているのが多重下請け構造なのです。

小川:
多重下請け構造の解消は重要な課題ですね。

松島:
そうですね。物流事業者はやはり戦略を立てて荷主と対等によりよい物流構築に向けた取り組みが必要です。
また一方で、国が主導し大規模事業者に集約していくというような施策を思い切って展開し、多重下請けではない産業構造に変えていかないといけないでしょう。
同じような多重下請け構造になっている建設業においては、国土交通省が音頭を取って構造改革に努めています。物流業に関しても国は否定的ではないと思います。むしろ、そろそろ取り組まないといけないという気運があるのではないでしょうか。

小川:
日本の物流は課題山積ですね。次回は2024年問題について考えていきたいと思います。

聞き手:アクティベーションストラテジー㈱ 代表取締役会長 小川克己

 シーオス株式会社

『社会インフラとしてのロジスティクスをデジタルネットワーク化することで産業に革新をもたらす。』を経営目的に掲げ、ロジスティクスサービスに於けるシステム開発、IoTソリューション、AI・ロボティクス研究開発、経営・運営に関するコンサルテーション、物流・ロジスティクス業務の受託を行う。ロジスティクスに関するコンサルティング、テクノロジー、業務アウトソーシングを三位一体で提供できることを強みとし、多くの企業の物流支援を行っている。
 ≪表彰・受賞実績≫
  2001年ロジスティクス大賞受賞
  2009年ロジスティクス大賞奨励賞受賞
  2017年グリーン物流パートナーシップ有料事業者(経済産業大臣表彰)

【次回以降連載予定】
第5回 物流が抱える直近の課題と対応
第6回 日本の物流の将来に向けて