日本のこれからの物流を考える ~ 第2回 米国との比較による日本物流の特徴

松島 聡 シーオス株式会社

代表取締役社長

薬剤師免許取得後、アクセンチュア戦略グループシニア・マネジャーを経て、2000年シーオス(株)創業。
2008年東京薬科⼤学理事(2期6年財務委員長・ICT委員長) 、2010年⽇本ロジスティクスシステム協会(JILS)広報委員・IoT部会委員などを歴任。
近著に「UXの時代」。公益社団法人⽇本ロジスティクスシステム協会 調査研究委員会 副委員長

小川:

コンサルティングファームにいらっしゃったときに感じたアメリカと日本の物流の違いとは何でしたか?

松島:

前回も少しお話しましたが、アメリカでは物流を「データ」として捉えています。当然、「物」が流れるから物流なのですが、それをデータに置き換えて最適化計算をしています。一方、日本は物流を「物を運ぶこと」として見ています。そういう発想だと重力に逆らって物を移動させることが主軸になるので、最終的に気合と根性と体力の話になってしまいます。このような日米の物流に対する捉え方の違いが一番大きいなと感じていました。

小川:

仰る通りですね。今でこそ変わってきましたが、日本は昔からモノ作りに強いこだわりのある製造業の国ですから、良いモノを作れば売れるはずだ・・・という意識が強く浸透していたと思います。それゆえ、作ったモノをどう届けるかという発想よりは、研究開発や新製品作りや機能追加等の製品の改修といった分野に注力していたという気がします。

松島:

それは私も強く感じていました。日本の花形産業は製造業であり、製造に関する改善や機械化、自動化という発想はもてはやされてきましたが、物流に関しては最近まで注目されていませんでしたね。逆にアメリカの改革にはサプライチェーン全体やロジスティックスにおけるデータ分析が基本にあり、それをベースに推進されています。

小川:

そうですね。

松島:

例えば、自動車産業のトヨタとフォードが分かりやすい事例になると思います。
トヨタは日本の製造業の文化を変えた2つの発想があります。1つは「Just in Time」と呼ばれるトヨタ生産方式です。受注された分をケイレツと呼ばれるサプライヤーを含めて一か所で生産を完結できる場合にかなり有効な仕組みで、部品の需給の不一致の解消を図り、無駄を削減した非常に画期的な仕組みです。これは国土が狭い日本において、サプライヤーと協働したものづくりを志向したトヨタだからできたことだと思います。局地的には極めて優れた仕組みで時代を捉えた戦略であり世界的な企業に成長した要因だと思います。
もう1つは有名な「カイゼン」です。現場の従業員たちが意見を出し合いながら、自分たちの力で作業のやり方などをより良くなるように変えていく、ボトムアップ型の活動で、分かりやすいので手本にしている企業も多いです。
ただ、トヨタ式のカイゼンは、カイゼンを実施した結果どのくらい改善されたのかを把握するために、実施前後の状態を数値化して記録しますが、データ分析といったカイゼンの裏側まで正しく理解している企業はあまり多くないと思います。
いずれも無駄を出さないという考えが起点になっています。

小川:

確かにそうですね。

松島:

一方、フォードの場合、アメリカやヨーロッパのような巨大な土地と市場で競争に勝つためにはどうするかというトップダウンの発想からスタートしています。世の中に遍く自動車を普及させたT型フォードのような、実用的で安価で標準化された車を大量に生産して巨大な市場に出荷していくために、いかに需要を予測して、大量生産に対応した原材料や部品を調達してくるべきかを考えていきました。
調達のみならず、需要地の近くで生産するためにイギリスに工場を新設したり、サービス体制にも配慮を怠らず、アメリカ全土で広域に渡るサービス網を整備して、補修パーツがストックされるデポを各地に設置したりもしています。

小川:

なるほど!需要地の近くで生産すれば当然輸送コストは安くなります。またT型フォードが壊れにくく、シンプルな構造で素人でもメンテナンスがし易かったとしても、当時の車ですから…(笑)サービスの充実はユーザーの安心感に繋がり需要は高まり、需要に応じて販売台数が伸びれば量産効果で車両価格は更に下がっていく…。

松島:

その通りです。フォードは単なるモノづくりだけではなく、研究開発~調達~生産~販売~メンテナンスの全ての領域おいて、サプライチェーン戦略の考え方が徹底していたと言えます。
日本はどちらかというとカイゼン重視、アメリカは戦略思考重視だと感じます。

小川:

1986年にCDIがスタートした頃ですら、戦略という概念は何となく分かってはいても、適切に活用出来ている企業は多くありませんでした。そういう見方・目線があるかどうかというところも多分大きいな違いなのではないでしょうか。

松島:

そうですね、アメリカのロジスティックスは軍事学に基づいていることが多く、大局的に考える総力戦の発想なのですが、日本では戦略という概念が部分的にしか機能しておらず、調達から出荷物流まで大局で考えることができていないと感じます。先の大戦でも日本は戦略無くして進軍し、その都度現状を見てから対応していたので負けてしまいました。戦後、そこから這い上がるようにトヨタがいわゆるかんばん方式でJust in Timeを築き上げてきたわけですから、アメリカのような発想は難しかったのかもしれません。

小川:

日本の物流が評価されてこなかった背景に、物流担当の人材配置も影響しているように思います。主力部門である研究開発や生産や営業とは違ってエース級の人材が配置されることが少なかったので、物流の重要性が認識されてこなかったのではないでしょうか。

松島 :

確かにそうかもしれません。経団連一つ取ってもそうでしたね。経団連に加盟できるのは製造業が中心で、流通業は論外という時代が長かったです。経団連の会長になるなんてもってのほかでした。完全に製造業が上で流通業は下みたいな雰囲気がありました。でも、米国は違いますね。

小川:

米国はどうなのでしょう。

松島:

ウォルマートのサム・ウォルトンがなぜ成功できたかというと、ロジスティクスの重要性を認識していたからです。そのため、今でもCSCO(Chief Supply Chain Officer)やCLO(Chief Logistics Officer)が社長候補に必ず挙がります。日本は物流からの人材が育ち難い環境ですね。

小川:

そうですね。ただ、私はちょっと期待している部分もあります。

松島:

どんなことですか?

小川:

今、IT業界ではDXやAI、ChatGPTといった実装面で効果を出すITが評価されており、IT技術者の需要と評価が非常に高くなっています。物流においても、2024年問題などをきっかけに物流に携わる人たちが評価されるチャンスになるのではないかと思っています。

松島 :

そのためにも、日本の物流について次回も考えてみましょうか。

小川:

そうですね。次回は日本の物流が抱える構造的な課題について取り上げたいと思います。

聞き手:アクティベーションストラテジー㈱ 代表取締役会長 小川克己