日本のこれからの物流を考える ~ 第1回 連載開始に向けて

松島 聡 シーオス株式会社

代表取締役社長

薬剤師免許取得後、アクセンチュア戦略グループシニア・マネジャーを経て、2000年シーオス(株)創業。
2008年東京薬科⼤学理事(2期6年財務委員長・ICT委員長) 、2010年⽇本ロジスティクスシステム協会(JILS)広報委員・IoT部会委員などを歴任。
近著に「UXの時代」。公益社団法人⽇本ロジスティクスシステム協会 調査研究委員会 副委員長

小川:

日本の物流は様々な社会活動を支える重要なインフラとして発達してきました。ECなどの成長により、今後も規模の拡大が予想されています。
しかし、現在の物流業界は『2024年問題』など多くの課題も抱えています。これから数回に亘って最先端の物流に詳しいシーオス株式会社の松島社長と日本の物流について深く考察していきたいと思います。
松島さんよろしくお願いします。

松島:

よろしくお願いします。

小川:

シーオス様は物流の単なるコンサルティングのみならず、最先端の知見・技術を自ら開発し、数多くの企業を支援されていらっしゃいます。松島さんが物流に関わるきっかけは何だったのでしょうか。

松島:

大学卒業後に入社したコンサルティングファームで製薬会社や病院に関連するプロジェクトに多く参画してきました。「薬学部卒のコンサルタント」という異色のキャリアに対するニーズがあったのだと思います。

小川:

具体的にはどのようなことをされていたのですか?

松島:

物流に深く関わっていくきっかけとなったのは米国の大手医療機器メーカーが日本に進出し、倉庫新設を始めとする物流インフラを新規に構築する案件でした。米国のメーカーの案件ということもあり、本国の最先端である物流の管理手法が多く取り入れられました。例えば、まだ日本では一般化されていなかったERPシステムを在庫管理に導入したことは大きな特徴でしたね。SAPを採用したのですが、これは世界的に見てもかなり先駆的な取り組みだったと思います。他にも配送ルートや拠点配置、庫内レイアウトもすべて一から設計する本当に巨大プロジェクトでした。私はその最先端の米国物流のすべてを肌身で感じ習得したいと考え、自費でフォークリフト免許を取得し実際に物を運んで庫内作業の導線を確認したり、実際にヘルメットを被って現場に入って庫内作業者の困りごとを経験したり、その一方で設計作業にも参画するといった具合に全ての作業に携わりました。

小川:

フォークリフトを運転できるコンサルタント!そこまで徹底してやるコンサルタントは当時も今も少ないのではないでしょうか?

松島:

そうですね(笑) ですが、この案件にアサインされたおかげで非常に多くの気づきがありました。実は、その最先端物流の理論や手法はファームの米国本部にあるロジスティックス専門チームによるものでした。他のファームには同じような規模で各種ノウハウを持った物流専門部署は殆ど無かったため、彼らは世界中の物流案件に数多く携わる特殊部隊だったんです。そんな彼らとの仕事を通じて私はウェアハウジングという学問があることを知りましたし、データに基づいて倉庫の候補地探しや倉庫内レイアウト設計を実際に行っているところを見ることができました。今でいうビッグデータを分析し、最適なレイアウトを導き出すのと同じですね。

小川:

貴重な体験ですね。

松島:

そう思います。このプロジェクトへの参画がきっかけとなり、様々な物流案件に次々と指名され、気づけばウェアハウジングのスペシャリストになっていました。当時の日本には私以外にここまで物流に詳しいコンサルタントはいなかったと思います。

小川:

なるほど。その豊富な経験から米国と日本の物流の違いについてどうお考えですか?

松島:

米国の物流はまさしく「科学」だと思います。ウェアハウジングなどの学問が確立され、物流データから最適化に向けた計算が行われます。物流を物理的な「運搬」と位置付けている日本と大きく違いますね。また、製造業ありきの物流であることや物流企業の規模も中小・零細が非常に多い構造も日本の特徴だと感じています。

小川:

確かに仰る通りですね。

松島:

この日米の物流に対する捉え方の違いには衝撃を受けましたし、逆にそれがビジネスチャンスだと思いました。

小川:

それが起業のきっかけだったのですか?

松島:

元々、学生時代から何らかの事業領域で起業したいとは考えていたのですが、多くの医療関連の物流案件に関わる中で直面した問題が起業のヒントになりました。当時、大きな問題だなと感じたのは医療材料の内外価格差でした。日本と米国の単価が実に10倍ほども違っていました。あるプロジェクトで現場調査をしたところ、日本独特のスタイルなのですが、病院の物流業務をメーカー毎に卸が代行をしていたために中間流通コストが膨らんでいることが判明したのです。そこで、手始めの改善策として院内の在庫管理システムを構築して在庫の見える化を行いました。その時に、メーカーを超えて病院で扱っている全製品を対象としたオペレーションにすれば、更なる効率化が図れるのではないかと考えたんです。

小川:

なるほど。

松島 :

日本に進出している海外メーカーも内外価格差に苦しんでいましたから、社会貢献という側面でもこの課題を捉えていました。商流はこれまで通り卸に任せるとして、物流をメーカー単位で個別に行うのではなく、取り扱いのある全メーカーの全製品を一括管理する共通の物流センターを用意し、オペレーションも一括で行うことにより物流の大幅な効率化とコストダウンを狙う事業の計画書を作成しました。その事業計画書が大手ファンドに大変評価され、そのファンドの支援も受けながら、これまでの医薬の知識と物流の経験をマッチさせるこの構想を具現化すべく起業しました。

小川:

素晴らしい発想です。個別のメーカーの効率化ではなく、これまでの慣習に捕らわれない病院物流の最適化を狙った事業ですね?

松島 :

はい、それを意識していました。そして、ある病院の共同センターを流通団地に立ち上げ、電子データでメーカーから納品された製品を管理し、必要な物の必要な数量を、適切なタイミングで、最も効率的に一括して払い出し、出荷データを元に改善策を検討して更なる最適化を図るという一連の流れを自ら実践する事業をスタートさせました

小川:

医療関連の物流は日付管理や温度管理、衛生管理などを徹底してそれをエビデンスに残さなければならず、また、人命に係わるのでミスが許されないかなり難しい領域だと思いますが。

松島 :

ええ、その通りです。これまで話してきたように一番難しい物流の、それも実践領域を敢えて選んで事業化をしたのですが、それがその後の事業展開に大きく貢献しています。当初の事業として難しい領域で成果を出す。その次に、そこでの経験と培った高度なノウハウをコンサルティングとして他に展開する。そして、物流現場に精通するがゆえに気づく「痒い所」に手が届くツール(ソフトウエアや機器)を開発して提供する。現在はこの3本柱で事業展開をしています。僭越ではありますが、日本経済の動脈ともいえる物流業界をより良くしていきたいと考えているので、道まだ半ばですが日々奔走しています。

小川:

なるほど。でも、日本の物流には様々な課題が溢れていますよね。次回からはより具体的に切り込んでいきたいと思います。

松島:

はい、よろしくお願い致します。

聞き手:アクティベーションストラテジー㈱ 代表取締役会長 小川克己