就活生の意識変化に見る採用活動処方箋|第2回 必要となる企業側の備え

戸川 博司  株式会社ハウテレビジョン

ビジネス本部 事業開発部 部長

2002年㈱リクルート入社。㈱ヒューマンシップを経て現職に至る。
リクルート時代に新卒・中途採用領域の営業マネージャーを務め、求人広告の提供以外にも、社員研修やインナーコミュニケーションなどHR領域全般の支援を行う。
これまでのキャリアを通じて、コンサルファーム、IT、商社、メーカー、メディカルなど東証一部上場企業からスタートアップ企業まで幅広い支援実績がある。
現職では新卒採用向け『外資就活ドットコム』と中途採用向け『Liiga』の採用プラットフォーム運営に携わっている。

柴田:

採用活動に関して変わってきたなと感じていることはありますか?

戸川:

以前は採用活動における主導権は企業側にありましたが、最近は学生が企業を選ぶという傾向が強くなってきたように感じています。
また、学生の就業観の変化に伴い企業の選び方にも違いが出てきたように思います。従来は興味のある業界の中で企業を選ぶという傾向が強かったのが、入社後のスキル習得や自己成長の可能性という視点で幅広い業界から企業を選ぶ学生が増えてきていますね。例えばコンサルティングファーム・総合商社・広告代理店・金融機関を併願するといった感じですね。これは特に優秀な学生ほどその傾向が強いように思います。

柴田:

いわゆる「就職偏差値」という概念ですね。そういった環境下において企業側も、これから自社が変えていきたいことや必要としている人材像などを的確に学生側に伝えていく必要があるのではないでしょうか?

戸川:

仰る通りです。以前とは異なり、企業の内情や採用活動がわかる口コミサイトなどが普及しているので、企業の実態が簡単に知られてしまいます。そのため、企業は採用活動だけではなく働き方そのものの変革に真剣に取り組み、学生に伝えていくことが求められていると思います。具体的には人事制度や福利厚生、マネジメント手法、給与体系の見直し、配属の在り方といった人事に関わるあらゆる課題です。これらの課題解決に取り組まなければ、労働市場から選ばれることが難しくなっていくのは明らかです。
最近はコース別採用やジョブ型採用といった配属先を確約して内定を出す事例もありますし、転勤の廃止やリモート勤務の選択制導入など制度面の改善事例も増えています。取り組み方は色々ありそうですね。

柴田:

コロナ渦でリモート勤務が急速に広まりましたが、リモート勤務を継続する企業もいれば、出社比率を高める企業もあります。企業により判断が分かれてきていますが、上手く機能しているのでしょうか?

戸川:

ケースバイケースかと思います。例えば、新人期間は社会人としての基礎を作るとても大事な時期であり、その間に様々な人と関わり、できるだけ多くの経験を積んだ方が良いのではないかと考えていますので、可能な限り出社した方が効果的なのではないでしょうか。

柴田:

そうかもしれませんね。私自身も転職してすぐにリモートワークになったので、ペースを掴むまで大変でした。インターン生もリモートでの働き方には苦労しているようです。教育係の私も苦労しています。
そのような経験から、仕事に対して一定の責任感や具体性を持てない段階では、リモート環境のみで仕事をするのは結構難しいのではないかと感じています。

戸川:

そうですね。リモートワークは手段ですから、個人の目標とそれに対するプロセスが定まっていないとか、成果創出のためのスキルが備わっていないような時期はオフィスワークが適しているかもしれません。
一方、企業は様々な働き方を用意しておくことが必要でしょう。ライフイベントによる変化に合わせて社員が働き方を選択できるようにしておくことが大切です。

柴田:

制度や体制以外に気になる点はありますか?

戸川:

インナーコミュニケーションに時間をかけていない企業が多いように感じます。
私が最初に入社したリクルートでは、毎月かなりの時間とコストをかけてインナーコミュニケーションが行われていました。業務の話に終始するのではなく、会社として大事にしていくべき価値観や部門のミッション、メンバーの取り組みなどの共有をしていました。こういった取り組みは、業績への直結が見づらく、後回しにされがちですが、人の納得感や意欲を高め、モチベーション高く働いてもらうためには必要不可欠であると感じています。

柴田:

私もそう思います。
今、インターン生のフォローをしているのですが、毎回業務開始前にGood&Newsという最近あった面白かったことやためになったこと、何か新しいことを2つ3つ会話しながら共有しています。単に人となりを理解し合えるだけでなく、今後の教育のメタファーに有効だと手応えを感じています。相手が納得しやすい言語で話せるというメリットもありとても大事だなと思います。

戸川:

採用活動をインナーコミュニケーションの機会とする企業の事例もありますね。採用活動は、社員が学生に会社のことを伝える機会です。普段意識していない会社のミッション・ビジョン・バリューと自分の仕事をつなげて話す機会も多いため、主体的に内省する機会を設けることができます。毎年、そのような機会を積み上げていくことで、企業の大事にしていることが社員に浸透し、強い組織になっていくのではないでしょうか。

(聞き手:アクティベーションストラテジー㈱コンサルスタッフ 柴田)