デジタルトランスフォーメーションの勘所 第4回:デジタルトランスフォーメーションが進まない原因

前回はデジタルトランスフォーメーションが叫ばれる背景について解説した。
今回はデジタルトランスフォーメーションが進まない原因となる魔のデッドロックについて説明する。

■デジタル施策を阻むフィジカルの壁

現場作業を可視化するためにセンサーを設備機器に付けてモニタリングするようなIoTの仕組みを入れようとしたり、アプリによって確認作業を自動化するツールを導入するなどのプロジェクトはよくある話だ。
そして実際に現場に勇んで出て行くと、愕然としてしまうことが起こる。
監視対象の設備機器が古すぎてデータが収集出来なかったり、振動が大きすぎてセンサー機器の方が先に壊れてしまうといった本末転倒な事も指摘されることがある。
さらにアプリで管理しなければならないものが完全なアナログの回転式メーターでデータ化したり可視化したりすることができないといったことが起きうる。
物理的な設備や機器を更新しなければデータのセンシングすらままならないフィジカルの壁にぶち当たるわけだ。
往々にして古い設備は設備投資する余力がないのでそのまま活用されていることも多く、なかなか一朝一夕では解決できない話であることが多い。

■フィジカル施策を阻むヒューマンの壁

なんとか補助金などが下りて設備を更新することが出来ることとなったとしよう。
最新の設備を入れるべく検討を進めようとすると、新しい機械になれるのは相当な時間がかかるので導入は古い設備と同じ程度の機能のモノにしてくれと現場の作業員が言う。
自動化できる設備を入れようとすると組合との話が難航するとかそんな自動化設備を管理するスキルが無いという話になる。
また自動化することを決めようとすると、その対象領域の方々の自動化後の人員配置や配属転換が困難なので自動化はあきらめてほしい、ほどほどにしてほしいという要望が出る。
すなわち、人のスキルやマインドセット、新たな仕事や環境に柔軟に対応し属人性を廃した業務オペレーション体系を構築できていなければヒューマンの壁にぶち当たってしまうわけだ。
古い設備をオペレーションしている方はベテランの方も多く属人性の高い業務を行っていることも日常的に存在するためこれもなかなかスムーズに行かない話だ。

■ヒューマン施策を阻むデジタルの壁

属人性をできるだけ回避するマニュアルをアプリで作りましょうと整備しようとすると、デジタルなコトがわかならない、ITリテラシーが低いので難しいのでは無いか、という話が出たり、ITの投資をするくらいなら設備投資をした方が良いという話が出たり、人的なリソースが減ったところをデジタルの仕組みで保管するのをどうすれば良いのか判らないという話も普通に出る。
さらにそもそも論としてデジタルトランスフォーメーションで目指す姿がわからない、とこう来るわけだ。
ヒューマンな課題を解決する施策を実行しようとすると利便性高く再現性ある業務を実現できるはずのデジタルツールが阻害要因になるというデジタルの壁にぶちあたってしまうわけなのだ。
そもそもデジタルを理解しようとしない向きも現場に行けば行くほど非常に多いのも実態だ。

■デジタルトランスフォーメーション魔のデッドロック

ここまで言及してきたように、デジタルな施策、フィジカルな施策、それらによって自動化が進む領域に関与する人達へのヒューマンな施策、それぞれが相互に制約のある依存関係になっており、それぞれが相互に阻害要因になっている構図が浮かび上がってくるわけだ。
筆者はこれを「デジタルトランスフォーメーション魔のデッドロック」と呼んでいる。
(図1)様々なDXプロジェクトに関与しているがどのプロジェクトでもいずれもこの光景が大なり小なり散見されることが多く、どのような企業においても普遍的に解決しなければならない課題であることが理解できる。

図1 デジタルトランスフォーメーション魔のデッドロック

そしてその解決方法は、無茶なことを言うようだが、それぞれを独立して実施するのではなく、三位一体で同じ並行的に進めるしかないのである。
それがデジタルトランスフォーメーションのプロジェクトでは往々にしてデジタル施策が優遇される。
これが上手くいかない典型的なパターンなのだ。
デジタル/フィジカル/ヒューマンな施策を同時実行していくことこそが、ハードルは高くても着実にトランスフォーメーションを前に進めていくことが出来る唯一無二のアプローチなのである。

次回はデジタルトランスフォーメーションが進みにくい状況として「デジタルトランスフォーメーションで必要な取組」について言及していきたい。

CDIソリューションズ(現アクティベーションストラテジー) 顧問
八子 知礼(やこ とものり)