デジタルトランスフォーメーションの勘所 第3回:デジタルトランスフォーメーションが叫ばれる背景

前回はデジタルトランスフォーメーションとはなにか、そしてその目指すものはなんなのかを説明した。
今回はデジタルトランスフォーメーションが叫ばれる背景について解説する。

■アナログで変われない世界

まず、「デジタル化する」と言っている時点でアナログ世界をターゲットにしているわけだ。
アナログなモノゴトは決して無くならないので、全てがデジタルになってしまうわけでもない。
ところがいつまでもアナログのままだと素早い対応が求められたり、物理的に離れたところから遠隔でなにかやろうとすることができない。
特にリアルタイムな反応が求められる製造工程の判断やスイッチング、ニーズがどんどん変わる来店顧客への即座の対応の切り替えなど、人間技でそれをこなすには長い訓練が必要であったり、センスが求められるなど、変化の大きな今の時代に合わないアプローチが求められる。
さらに2020年前半はCOVID-19のインパクトによって遠隔業務を求められるオフィスワーカーが激増した。
物理的に離れたところから業務をしなければならないのに電話とメールだけで済ませられるわけでもないし、物流や小売といった現物を扱う現場では当然アナログな対応が求められたわけだ。
すなわち、COVID-19によってチャットツールやWeb会議などを使ったデジタルなやり方で過ごすことができたのはアナログな現物と向き合う必要がないホワイトカラー達中心であって、現物と向き合う必要がある人達やビジネスについては変わりたくても変われないわけだ。

■デジタルトランスフォーメーションが必要な背景

突然の変化があったり、変化が読みにくいVUCAの時代(※)にはアナログだけではなかなか変化に対応することができず、環境の変化に対して後手に回り、結果として生き残っていくことが難しい事が容易に想定される。
またアナログ世界は普遍的に既に業務やモノゴトが回っているため容易には変えられないこともまた一つの心理だ。
そこがデジタル化への加速を非常に難しいモノにしている。
※VUCAとはVolatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、現代の不安定かつ不確実な経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワードとして使われている。
残念ながら世間で現在喧伝されているデジタルトランスフォーメーションの多くは、単なるIT化やソフトウェアの導入などでしかないコトが非常に多い。
デジタルトランスフォーメーションの「デジタル」側に強く依存した解釈や便乗商売が後を絶たない状態だ。
IoE(Internet of Everything)をスローガンに掲げていた米シスコ・システムズが2015年に社長が替わったことをきっかけにDigital Transformationというスローガンに変えた際に、当時は普遍的で特徴のない言葉に変えたなぁ、と違和感を覚えたものだが、今となってはその先見性に驚くと共に、この広がりの大きなキーワードにすっかり馴染んでしまった自分にも意外さを感じる。
シスコがそこまでしてこのキーワードにしたのは、既に様々なモノゴトが繋がりつつある世界観を標榜していた同社にとっても、繋がった先にあるものはなんなのかが定義できていないもどかしさにあったのではないだろうか。
すなわち、デジタルですべてがConnectされた世界(Internet of Everything)とは、これまでの世界よりも格段にスマートで格段に効率がよく最適化されており、変化に対して柔軟な世界なのではないか。
それは今の世界からまったく変革されている世界ではないか、と。

■重要なのは背景と目的の理解を通じた未来像の定義

抽象度が高いこの定義については、要件のみがイメージできるだけでその中身が存在しない。
企業がそれぞれごとに考えなければならず、だからこそがむしゃらなまでに「企業としてのデジタル化の総力戦」を行っているわけだ。
そこまで自らを追い込まなければ手段だけ何でも取り入れていても、目指す姿の答えが見えてこない、それがデジタルトランスフォーメーションの悩ましいところなのだ。
このように、背景を十分に理解することが重要であると共に、重要だと我々が繰り返し言及しているのは、手段としてのデジタル化ではなく、目的やビジネスモデルとしてのデジタル化を目指せ、ということなのだ。
なかなか自らの意思で変化させる事が難しいアナログ世界であり、一方で予測不可能に自らの意思ではない条件で凄まじい変化が起こるのが現代のアナログの特徴であることが理解できていれば、それに耐えうる・補完できる・強化することをデジタルビジネスで実現しようではないか、という期待感をかけることは背景が理解できていれば必然の流れであろう。
その上で、アナログ世界とデジタル世界の融合による新しい姿はなんなのか、どのような目的でそれを達成するのかをあらためて突き詰めて考え、求め続けなければならないと思う。

次回はデジタルトランスフォーメーションが進みにくい状況として「デジタルトランスフォーメーション魔のデッドロック」について言及していきたい。

CDIソリューションズ(現アクティベーションストラテジー) 顧問
八子 知礼(やこ とものり)