情報システムの使い方 ~ITが『経営に役立つ』とは何か?~ 第3回:事業承継・事業継続に対する情報システムの意味

昨今、多くの中堅・中小企業において、業務の属人化・ブラックボックス化が事業継続に大きな危機をもたらしているケースが非常に多くみられます。
そこで今回は、「事業承継・事業継続に対する情報システムの意味」について事例を踏まえながらお話ししましょう。

「事業承継」は、昨今多くの中堅・中小企業で問題となっています。
その要因として最も多いのは、後継者の不在。後継者を確保できなければ、事業承継の見通しが立たないのです。
その背景には、どのようなことが起こっているのでしょうか。

例えば、企業の経営者が経営に必要な情報を得る際、情報システムに頼らなくても長年の肌感覚で企業の状態を感じ、隅々まできめ細やかな指示を現場の個々人にあてて出している場合があります。
これは、KPIとその予兆の把握方法が経営者自身に属人化(ブラックボックス化)している、いわゆる「経営者の感と経験による経営」といえるでしょう。
経営者の指示が最適で業績も良好であれば、このような経営でも大きな問題なく行われ続けていきます。
ところが経営者が高齢化し、次の経営を誰に委ねるかという時に、この「経営者の感と経験」による運用が経営管理のブラックボックスとして大きな障壁になります。
経営者以外の者は長年の感や経験に乏しいことが多く、何をもって正しい意思決定すればよいのかという判断基準が不明確だからです。
事業継続においても、業務・システムのブラックボックス化が問題となっています。
大規模な情報システム部門を持たない中堅・中小企業で、業務やシステム仕様の把握を特定個人に依存してしまっているケースです。
情報システムに関しては、一人の担当者が運用・保守を長年のあいだ行い、老朽化したシステムの仕様書やマニュアルは所在不明で、その内容が担当者の頭の中にのみ存在する状況といった、情報システムの「ブラックボックス化」が進行していることが多々あります。
またその他の業務についても、各担当者のやりやすいようにExcel等で独自の資料を作成したり、プログラミングに精通した方であれば独自にマクロを作り上げたりして、各業務が担当者に属人化してしまうケースも多く見受けられます。
このように、業務・システムがブラックボックス化し、担当者以外に誰も業務のやり方を把握していなことに加え、中堅~若手人材の枯渇により業務・システムの知識が引き継がれず、バックアッパーも確保できない状況に陥ってしまっており、「事業承継・事業継続」問題に解決の手立てを持てないでいるのです。

それでは、こうした「事業承継・事業継続」問題を解決した事例をいくつかご紹介しましょう。

1.世代交代・事業承継解決の取り組み

A社では、長年経営を行ってきた会長が、工場の様子…例えば機械の稼働状況や段取り替えの様子、人の稼働や動線、受注している案件のロットサイズ、トラックの出入り、在庫状況等を見ただけで、おおよその原価や利益、会社の現状を推測することができていました。
そのため、情報システムを使ってそれらを明らかにしなくても、会長の推測に基づいて良好な経営が行われており、KPIを誰にでも分かるようにする必要も、そういう発想もありませんでした。
しかし世代交代を見据えると、会長一人の推測に頼らない情報システムによる経営が最善であり、そしてそのためにはKPI把握が必須であるとの判断から、全社的な改善に取り組むこととなりました。
まず、経営に必要な「売上」「営業利益までのP/L項目にとどまらない調達」「生産」「営業」の、各業務プロセスにおいて必要となる指標を明示化した上で、情報システムに入力させる、KPIを把握するために必要な情報や、原価や販管費を計算するための配賦基準等を設定し、円滑な情報システム運用と経営管理方法を決定していったのです。
結果、次代の社長および経営陣は経営をスムーズに行えるようになりました。
とはいえ、そのために各部門が今後やるべき事柄を一から整理しなければならず、全ての仕組を整備するのに2年もの年月を要しました。

2.現行システムのブラックボックスの解決

B社では、システムの仕様を把握しているIT担当部長の退職が1年後に迫っており、後任への引継ぎには、仕様の早急な可視化が必要でした。
しかし、何十年もの間にくり返されたシステム改修によって、IT担当部長以外の誰も仕様そのものを把握しておらず、IT担当部長の退職まで時間がない中で引継ぎを行うことは非常に困難な状況でした。
このままでは、前任者の退職後に情報システムをメンテナンスすることもできないと判断し、新しい情報システム部長はドラスティックに現行システムのリプレイスを決定。
一から新しいシステムを導入し、外部ベンダーに仕様書等を整備させることで、現行システムのブラックボックス化の解決を図りました。

3.事業運営上キーとなる最重要業務の可視化

C社では、海外売上の拡大を志向していましたが、海外受注および貿易に関する業務が特定の担当者に依存している状態で、しかもその担当者が高齢化しているため、海外の受注拡大に対応できないどころか、このままでは出荷が止まってしまうことが目に見えていました。
また、発注業務に関してもある特定の定年間近な担当者に属人化し、その担当者以外に誰も業務内容を把握していないため、やはり発注業務が止まってしまうという事業継続のリスクも抱えていました。
そこで、情報システムとしてERPパッケージを導入し、標準機能に業務を合わせることで属人化を排除させる戦略をとりました。
なぜなら、ERP導入を短期間で行うためにはアドオン開発を極小にする必要があることや、費用をなるべく抑えたいというC社の要望を叶えるためには、ERPを標準機能で使用し、個別担当者のシステム機能への要望を抑えて属人化させないことが最適であると考えたからです。
もちろん、ERPへ業務を合わせるためにはまた別の課題をクリアしなければなりませんが、「いかにERPを標準機能で使用するか」という観点で新業務を設計することで、極力システム開発を行わないERPの導入に成功したのです。
さらに、これだけでは属人化の排除が一時的なものにとどまる可能性があるため、システム改修の要望を出す際や業務を変更する場合には、情報システム担当者を必ず通す運用とすることも併せて決定しました。
一方D社では、生産計画の立案や需給調整業務を、ある担当者が独自に作ったAccessを利用して行っており、Accessのアウトプットを基幹システムに取り込むことで工場への生産指示が出されていました。
ところがそのAccessは、担当者個人のPCで作成・管理されていたため、本人以外では生産計画の立案や需給調整を行うことができず、その担当者が万一いなくなれば生産が止まったり、在庫数量が不適切に転じてコストが増大したりしてしまうといった危機に瀕していました。
そこで、まずそのAccessを情報システム部の管理下におき、仕様を把握した上でそれを使用できる担当者を複数育成した後、Accessの改修権限をその担当者から外して特定担当者への属人化を排除しました。

さて、これらの4つの事例から、中堅・中小企業の「事業承継・事業継続」問題において備えるべきこととは何か、おわかりいただけるでしょうか?
それは、「暗黙知を形式知にすること」です。「形式知化する」とは、明文化・共有化する…つまりマニュアル化し、そのマニュアルを共有化させ、会社全体の管理下に置くことです。
前述した全ての事例において、暗黙知化している業務/システム仕様に関する知識を形式知化したことが、問題解決の要だったのです。

上図のステップにより、暗黙知を形式知化することが可能です。
ただし、①の「マニュアル化/仕様書作成」には多くの時間と業務工数を必要とします。
各担当者にとっての常識的な知識を、どの範囲まで明文化すべきか判断し可視化することは、想像以上に難しく時間がかかることなのです。
ですから、通常業務を行っている中でどのようにその時間を創出するのか、あるいは通常業務で手一杯の従業員をどのように説得し、マニュアルを作成してもらうのか、自分たちで本当にマニュアル化をやり切れるのか、といった問題がついて回ります。
加えて、前任者の退任までに1年間しかない等の時間的な制約があることが多いのも事実です。
そのような場合は、情報システムを導入し、新しい業務(外の知見)に置き換えることで時間を買うということも検討すべきでしょう。
つまり、事業承継・事業継続に対する情報システムは、「時間や業務工数を買うこと」と「過去のしがらみを断ち切ること」という意味を持ちます。
情報システムを導入し、それに合わせて業務を行っていけば、誰でも一般的なやり方による業務遂行が可能です。
現状業務のマニュアルを一から作成して後任に引き継ぐ…と言う手間が省け、過去の担当者が独自に作り上げた業務のやり方を踏襲する必要もありません。
情報システムの仕様が明らかとなり、メンテナンスも容易になります。
さらに経営管理についても、現行の経営者が暗黙知的に把握しているKPIを明示化した上で情報システムから情報を取得することができるようになれば、後任の経営者もスムーズに経営を進めていくことが可能です。
このように、情報システムは「経営者」「業務担当者」「システム担当者」のそれぞれのレイヤーにおいて、世代交代に直面した際の最短かつ確実な解決に、強力な手助けとなるのです。

今回は「事業承継・事業継続に対する情報システムの意味」についてお話ししました。
次回より、情報システムを利用した「コストダウンとバリューアップ」についてお話ししていきますが、まずはそれらの効果創出をお伝えする前に、その前段としてのBPRと情報システムについて次回お話しします。

CDIソリューションズ(現アクティベーションストラテジー) シニアディレクター
森田 克己 (もりた かつみ)