2024-01-31

制度・組織体制

日本のこれからの物流を考える ~ 第3回 日本物流が抱える構造的な課題(1)

松島 聡 シーオス株式会社

代表取締役社長


薬剤師免許取得後、アクセンチュア戦略グループシニア・マネジャーを経て、2000年シーオス(株)創業。2008年東京薬科⼤学理事(2期6年財務委員長・ICT委員長) 、2010年⽇本ロジスティクスシステム協会(JILS)広報委員・IoT部会委員などを歴任。近著に「UXの時代」。公益社団法人⽇本ロジスティクスシステム協会 調査研究委員会 副委員長

小川:

今日は日本の物流業界の課題について考えてみたいと思います。
前回、日米の物流の違いについて少し触れましたが、日米物流を比較して日本の物流業界の課題についてどうお考えですか?

松島:

日本の物流において最大の課題は「データ軽視」です。データ軽視が多くの課題の根源となっていると思います。

小川:

例えばどのような課題があるのでしょうか。

松島:

特に看過できないと考えている課題は主に次の4つです。


 (1)物流が重要な戦略要素であるという意識の欠如
 (2)物流のスペシャリストが育たない環境
 (3)ロードファクターに対する認識不足
 (4)多重下請け構造

 

■ 物流が重要な戦略要素であるという意識の欠如

小川:

なるほど。では順番に考えていきましょう。
私も多くのお客様と接している中で、物流は非常に重要な戦略要素であると感じています。

松島:

前回も軽くお話しましたが、アメリカでは物流を「データ」として捉えています。サプライチェーン全体やロジスティックスに関するデータを集積・分析し、業務改善や効率化だけでなく事業戦略にも活用しています。

小川:

どのような活用がされているのでしょうか?

松島:

ウォルマートはかなり早い段階からデータ分析の活用を取り入れています。例えば、1978年にバーコードシステムやコンピュータによる品目別在庫管理を始め、1988年には98%の店舗でスキャニングが可能になりました。また、1990年にマクレーンという流通に強い食品卸売業者を買収しています(現在はバークシャー・ハサウェイ社の完全子会社となっている)。この買収によりドライ、チルド、フローズンの3温度帯の商品の必要な数量を、情報システムを駆使してワンストップデリバリーで届ける中間物流のノウハウを保有することが出来ました。これにより、後の店頭のPOSデータから補充すべき商品と数量を算出し、そのデータをメーカーの生産計画に連動させ、中間物流に在庫を持たずに複数のメーカーの商品をクロスドックで積み替えて店頭在庫を自動補充する、新しい中間物流を完成させることになるのです。

小川:

なるほど。

松島:

全米という巨大なマーケットをターゲットにした場合、インフラ全体を考えてから具体的な物流構築が必要だと考えたのでしょう。そのベースになっていたのが「データ活用」だったのです。
サム・ウォルトンは、本部、物流センター、店舗間での画像や動画を含めたデータのやり取りの為に自社衛星を飛ばしたり、POSによる販売データの管理、精度の高い発注と自動在庫補充ができる「スマート・システム」や、メーカーと販売・在庫実績を共有する「リテール・リンク」を開発したりと様々な実験や取り組みを行っています。すべてが結果につながっているわけではないですが、いずれもデータ活用の必要性に駆られて行われた取り組みです。

小川:

すごいですね。最近でこそDXが浸透してきましたが、これまでの日本ではデータ分析を徹底的に戦略に活用してきた企業はとても少なかったと記憶しています。

松島:

ええ、少なかったですね。ただ、セブンイレブンのドミナント戦略は日本での数少ない事例であり、流通業界の流れを変えたと思います。これまで日本の小売業は商圏分析から出店計画を立てるのが主流で、現地調査など自分の目で見てきたものを優先してしまう傾向が強かったのですが、セブンイレブンは徹底したデータ分析を行い集客力だけでなく調達やセンター在庫、店頭配送などそのエリア全体の効率化を目指しました。

小川:

駅の乗降者数や昼夜間の人口差などの分析はやっている企業も多いですが、まだまだサプライチェーン全体を視野に入れたマーケティングには程遠いという感は否めないですね。

松島:

そうですね、本当の「戦略」をやっている企業はまだ少ないと思います。多くの企業は「戦略」ではなく「改善」をしているなぁと感じます。

小川:

人口減少が進んでいる日本市場において、物量も減少していくことは容易に想像できます。今後も物流を考える上ではもっと広い視野でとらえていく必要がありますね。

松島:

製造業は自社の物流インフラを所有している強みを今一度見直すべきだと思います。稼働率が下がっていく中で自社の荷物だけを運ぶのは限界であるということを認識することは戦略において大きな転換点になるのではないでしょうか。経営者は競争優位のあるインフラをどのように作っていくのか今まさに議論すべき時だと思います。

小川:

それにはやはりデータが必要ですよね?

松島:

そうです。データに基づく本当の課題をあぶり出し、客観的な認識の下でどのような選択をしていくのかが大事です。勘と経験だけでそのような重大な選択はできません。

 

■ 物流のスペシャリストが育たない環境

小川:
データ分析が非常に重要な要素だということですが、データ分析のスペシャリストが少ないと感じます。

松島:
そうですね、データで語ることができる人材はいません。

小川:

具体的にはどのような人材が必要だと思いますか?

松島:

製造業でいえば調達物流と出荷物流の縦割りで管理されている企業がほとんどだと思います。それぞれの物流コストを明確にすることで構造改革の余地はまだあるでしょうから、そういう視点で考えられるスペシャリストが必要でしょう。

小川:

なるほど。

松島:

それからロードファクターについても正しく理解している人材は少ないように感じています。全体最適の概念から見ると非効率な部分が数多くあります。ロードファクターはどの業界でも低いので、同一エリア内の配送であれば企業や業種を超えて温度帯などの商品属性で共同配送して最適化を図るといった大胆な発想ができる人材がいても良いのではないかと思います。

小川:

ロードファクターは運ぶ商品の特性によって「容積勝ち」や「重量勝ち」が発生します。本当の物流の効率化を考えると重い商品と嵩張る商品を組み合わせて最大積載量で運ぶ事が求められます。それを実現しようとすると一企業で行う事は困難なので企業や業種を超える必要があるのですね?いずれも感覚ではなく、綿密なデータ分析があった上での話になると思うのですが、どうしてデータ分析のスペシャリストがいないのでしょうか。

松島:

これまでの物流が製造に対して従属的な関係にあったからではないかと考えています。経験と努力でコスト削減を図り、積載効率を高めてきたため物流業は肉体労働市場として位置づけられてしまいました。
当然、データの必要性や重要性にまで考えが至りませんから、データ分析のスペシャリストが集まってくることはありません。大学では非常に優秀な学生が物流にフォーカスして研究していますが、彼らのような優秀な人材は従属的な物流業務に携わることなく、そのデータ分析技術を他で活用すべく金融や投資銀行といった企業へ流出しています。
物流のビッグデータを集積・分析・活用できる環境を整え、育てていく必要がありますね。

小川:

ここ数年、コロナや紛争などでガソリンや原材料の高騰が続いていますし、人材不足もあり企業努力だけでは先行きが難しいと感じます。

松島:

そうですね。人材育成とデータ収集・分析強化が重要なポイントになるでしょう。

小川:

松島さんありがとうございました。次回は「(3)ロードファクターに対する認識不足」と「(4)多重下請け構造」について切り込んで行きたいと思います。

                                     聞き手:アクティベーションストラテジー㈱ 代表取締役会長 小川克己

シーオス株式会社

『社会インフラとしてのロジスティクスをデジタルネットワーク化することで産業に革新をもたらす。』を経営目的に掲げ、ロジスティクスサービスに於けるシステム開発、IoTソリューション、AI・ロボティクス研究開発、経営・運営に関するコンサルテーション、物流・ロジスティクス業務の受託を行う。ロジスティクスに関するコンサルティング、テクノロジー、業務アウトソーシングを三位一体で提供できることを強みとし、多くの企業の物流支援を行っている。
 ≪表彰・受賞実績≫
  2001年ロジスティクス大賞受賞
  2009年ロジスティクス大賞奨励賞受賞
  2017年グリーン物流パートナーシップ有料事業者(経済産業大臣表彰)

 

【次回以降連載予定】

第4回 日本の物流が抱える構造的な課題(2)

第5回 物流が抱える直近の課題と対応

第6回 日本の物流の将来に向けて

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